治験について

COVID-19|新型コロナウイルス肺炎に対する治験情報のまとめ

国内外で行われている新型コロナウイルス肺炎に対する主要な治験(臨床試験)情報をまとめています。

更新情報

レムデシビル:

日本でも特例承認されたが、2020年6月3日時点、米国にて有効性が疑問視されている。日本人への有効性の報告が待たれる。

ファビピラビル(アビガン):

国内臨床試験実施中。藤田医科大学病院の研究では安全性への懸念は低いものの、軽症例での回復率に有意差は見られず、重症例での回復は6割。引き続き治験の結果が待たれる。

ヒドロキシクロロキン:

安全性に問題ありとされ各国で試験中止。WHOは問題ないとして再度試験を開始することを検討している。感染した報告はないが、かのトランプ氏も服用していた。

トシリズマブ(アクテムラ):

6月2日より治験開始。TNFαやIL6などの炎症性サイトカインを抑える抗炎症作用が期待されている。

※以下は2020年2月29日時点の情報です。その後次々と新しい治験が始まっており、各メディアでも取り上げられています。最新情報はそちらをご覧ください。

現在行われている臨床試験

2020年2月29日現在、以下の試験が進行しています。

  • 米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)によるレムデシビル治験
  • ギリアド(Gilead)社によるレムデシビル治験
  • 中国でのレムデビシル治験
  • 国内の観察研究(3薬剤)

米国立衛生研究所(NIH)による医師主導治験

2020年2月25日、NIHからCOVID-19を対象とした抗ウイルス薬「レムデシビル」の医師主導治験を始めたとの発表がありました。

こちらはNIH傘下の米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導するもので、米Nebraska大学と協力して実施している医師主導治験です。

※医師主導治験…製薬会社が行うのではなく病院の医師が主導して行う治験

被験者(治療を受ける患者)はダイアモンド・プリンセス号から下船した乗客のうち新型コロナウイルス肺炎を発症した患者を対象とし、隔離された施設で行われています。

試験方法は「無作為化二重盲検プラセボ対照試験」で行われ、レムデシビルの安全性と有効性を評価することが目的です。

この試験方法は、レムデシビルとプラセボ(偽薬)を医師も患者もどちらを投与しているか分からないようにすることで、薬の効果を科学的に評価する方法です。

患者はレムデシビル投与群もしくはプラセボ群のどちらかにランダムに割り付けられます。

レムデシビル投与群では初日に静脈内にレムデシビル200mgを投与し、以降100mgを投与します。

プラセボ群の場合も同様に静脈内投与を行いますが、レムデシビルが入っていない輸液が投与されます。

プラセボ群に当たる可能性があることやリスクについては、事前に被験者に説明され同意を得たうえで試験を行っています。

試験に参加していただく被験者数(目標症例数)は394例です。

試験開始から15日目における症状の度合いを「完全回復」から「死亡」まで7段階で評価します。
最初の100例の被験者を評価した後に、この評価基準が適切であるか再評価することになっています。

試験の実施に際して独立データモニタリング委員会(DSMB)が設置されており、データと安全性については第三機関も監視を行っています。

厚生労働省健康局結核感染症課は、日経バイオテクから受けた取材に対して日本も3月にはこの試験に参加する予定だと回答しています。

参考:NIH clinical trial of remdesivir to treat COVID-19 begins



Gilead Sciences(ギリアド・サイエンス)社による企業治験

レムデシビルの開発元である米Gilead Sciences社が企業治験(第3相臨床試験)を2020年2月26日に開始したと発表しています。

アジアを中心とし、世界中から約1000例を組み入れる見込みです。

この試験はNIHのレムデシビル試験とは別の試験ですが、互いにデータを補完し合うものです。

日本の症例も組み入れ予定となっていますが、詳細はまだ明らかになっていません。

参考:Ghilead Press Releases February 26, 2020

中日友好医院(中国・北京市)での医師主導治験

中国では中日友好医院(北京市)が主導となり、COVID-19に対するレムデシビルの医師主導治験が進められています。

ギリアド社はこの治験に使用するレムデシビルを提供しています。

ギリアド社のリリースによると、中国で進行中の医師主導治験については、「2020年4月に結果が得られる予定」とのことです。

参考:ギリアド プレスリリース

国内での観察研究

国内では「観察研究」が開始されました。

観察研究とは、「医療機関内の倫理委員会等の手続きを経て、患者の同意を得た上で、本来の適応とは異なる投与等を行った治療について、治療結果等を集積し、分析する一連の研究」(政府公開資料)のことです。
一般的に臨床研究や治験と比較して開始できるまでの期間が短く、今回のような緊急性のある治療効果の検討に適用しやすい利点があります。

この観察研究は、国立国際医療研究センター(東京・新宿)を中心に始まっています。

COVID-19の患者に対して抗インフルエンザ薬の「アビガン」(一般名ファビピラビル、富士フイルム富山化学)や、抗HIV薬の「カレトラ」(一般名ロピナビル・リトナビル、米Abbvie社)、レムデシビルといった治療薬候補を新型コロナウイルス肺炎患者に投与します。

各薬剤の作用機序

レムデシビル、アビガン、カレトラとはどんな薬かについて以下にご紹介します。

なお、アビガンとカレトラは薬の「商品名」ですが、レムデシビルは「一般名」です。医薬品は医薬品として承認されるまで商品名は原則つかないためです。

レムデシビル

レムデシビルは元々ギリアド社がエボラ出血熱の治療薬として開発を進めてきた抗ウイルス薬です。

これまでの研究から、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害する、つまり、ウイルスの増殖を阻害することなどが報告されています。

また、NIHのアカゲザルでの研究において、レムデシビルのMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス(MARS-CoV)の感染症に対する有効性を示唆する結果を得たと公表しています。
研究者の見解では、新型コロナウイルスに対する効果も期待できるとのことです。

カレトラ

カレトラはAbbvie(アッヴィ)社の抗HIV薬です。

これは、リトナビルとロピナビルという2種類の薬剤の配合薬です。

ロピナビルがHIVのプロテアーゼ活性を阻害することで感染性のある成熟したHIVの産生を抑制する一方、リトナビルが薬物代謝酵素であるシトクロムP450(CYP)3Aによるロピナビルの代謝を阻害し、ロピナビルの血中濃度を上昇させます。
ロピナビルのHIVに対する抑制作用をリトナビルが助けることで効果を発揮する薬です。

リトナビルとロピナビルの併用療法は、過去にSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス(SARS-CoV)の感染症に対して有効性が示唆されています。

アビガン

アビガンは、富士フイルム富山化学が2014年に製造販売承認を取得した抗インフルエンザウイルス薬です。

アビガンの有効成分であるファビピラビルは、宿主の細胞内の酵素によって活性代謝物に変換された後、RNA依存性RNAポリメラーゼを阻害するなどして、ウイルスの複製を抑制するとされています。

ウイルスには細胞が持つような「核」がなく、DNAもしくはRNAをエンベロープという膜が覆う構造をしています。

コロナウイルスはRNAウイルスであり、RNAポリメラーゼを阻害することで増殖を阻害します。

4月以降の結果に期待

現在、COVID-19に対する有効性が正式に認められた治療薬はありません。

これらの治験の結果次第では、レムデシビルがCOVID-19に対する治療薬として承認されることになります。

4月以降の結果に期待が寄せられます。



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医療関係の業界で転職しつつ働くこと9年以上。 医療・製薬系のお仕事や治験についての情報を発信しています。
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