CRAのつぶやき

レムデシビルに特例承認?アビガンには適用できない理由

「間もなく薬事承認が可能となる見込み」

2020年4月27日、安倍晋三首相が衆院本会議の答弁の中で、レムデシビルについて発言したものです。

これは臨床開発に関わる人間からは驚きを隠せません。
日本では4月半ばに始まったばかりのこの試験。果たしてそんなことが可能なのか。

その後、政府関係者の話から「特例承認を適用する方針」「2020年5月にも利用可能となる見通し」との内容が相次いで報じられたことから、『特例承認』が検討されていることが分かりました。

レムデシビルについて

レムデシビルは、Gilead Sciences(ギリアド・サイエンス)社がもともとエボラ出血熱を対象に開発を進めていた低分子化合物で、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害する作用があります。

つまり、レムデシビルはエボラ出血熱のウイルスの増殖を止める作用に期待して作られていた薬です。しかし、これまでにレムデシビルが承認された国・地域はありません。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対してはというと、「in vitro」と呼ばれる試験管内での実験(実際は培養プレートと思われますが)で、ウイルスの活性を抑えることが明らかになっています。

そのことから、世界中でレムデシビルの新型コロナウイルスへの有効性を確認するための複数の臨床試験が実施されています。

レムデシビルの臨床試験状況

Gilead(ギリアド)社は、2020年4月29日現在、レムデシビルの新型コロナウイルスへの臨床試験を大きく2試験行っています。

1つはCOVID-19と診断された「中等度」の入院患者1600例を対象とした第3相臨床試験、もう1つはCOVID-19と診断された「重度」の入院患者2400例を対象とした第3相臨床試験です。

これら2本の試験はグローバルで実施中であり、複数の国で同時に行う試験として行われています。

日本はこのうち、1つめの「中等度の入院患者を対象とした第3相臨床試験」に参加しています。ただし、どの程度の患者さんが国内で組み入れられたかは現時点では分かっていません。
2つめの「重度の入院患者を対象とした第3相臨床試験」については、患者さんの数が必要な人数に達していることから組み入れが終了しており、日本は参加していません。

4月末から5月にかけて、この2本の臨床試験に組み入れられた計1000例の患者データからどのような結果が得られたかが公表される予定とのことです。

特例承認とは

一方で『特例承認』とは、「医薬品医療機器等法」の第14条の3、第1項に定められている、医薬品を必要なときに特別に使えるようにする仕組みです。

しかし特例承認には条件があります。それが以下の2点です。

(1)国民の生命や健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病の健康被害の拡大を防止するために必要な医薬品で、かつ、当該医薬品以外に適当な方法がない
(2)承認制度が日本と同等水準にある外国で承認・販売されている医薬品である

これらの条件を満たした場合、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を踏まえたうえで、医薬品を承認するという仕組みです。

医薬品の承認を早くするための枠組みには他にも「条件付き早期承認制度」「先駆け審査指定制度」「迅速審査・優先審査」などがありますが、この「特例承認」は緊急性を有する医薬品に対して行うようなイメージがあります。

レムデシビルの特例承認はまだまだ未定

また、医薬品医療機器等法に基づく特例承認は、適用できる医薬品が限られています。
「医薬品医療機器等法の第14条の3第1項の医薬品等を定める政令」の中に、特例承認の制度の対象国や対象品目が規定されています。

その政令によると、現在のところ承認制度が日本と同水準の国となっているのは「英国」「カナダ」「ドイツ」「フランス」のみで、対象となる医薬品は新型インフルエンザのワクチンだけです。

つまり、今の政令では米国で承認された医薬品や、新型コロナウイルス感染症に対する医薬品は対象にならないことになります。
そのため、レムデシビルの特例承認にはまずはこの政令の改正が必要となります。

ただ、政令が改正されたとしても、特例承認を行うためにはそもそもGilead社が承認申請を行い、かつ政令が定めているいずれかの国で承認されることが前提条件にあります。

現時点でこのレムデシビルの承認申請時期についてGilead本社や日本法人からの発表はありませんので、5月の薬事承認の実現には大変な労力とスピード感が求められることでしょう。

アビガンに特例承認が適用できない理由

COVID-19治療薬として期待されているもう一つが「アビガン錠」です。
こちらもウイルスの増殖を防ぐ作用があり、COVID-19への効果が期待されています。

入院した著名人の数人もアビガンで熱が下がったり回復に向かったとの報告があります。

しかしアビガン錠については特例承認が適用できません。
これは「承認制度が日本と同等水準にある外国で承認・販売されている医薬品」に該当しないためであると考えられます。

アビガン(一般名:ファビピラビル)は富士フイルム富山化学が開発した抗ウイルス剤で、国内では新型・再興型インフルエンザ発生時に限り国の判断で使用できる医薬品として2014年3月に承認されています。

しかし海外の状況においては、4月9日に米国でCOVID-19患者を対象として第II相試験が開始した段階です。
国内では既に富士フイルム富山化学が3月末から治験(国内第Ⅲ相試験)を開始しており、治験としては日本の方が進んでいることもありこの特例承認の条件に合わないのが実情です。

なお、国内のアビガン治験は国内最大手のCROであるシミック株式会社が受託しています。親会社のシミックホールディングスでは医薬品製造工場も自社で持っており、アビガンの製造も開始しています。

アビガンかレムデシビルか

COVID-19治療薬にはクロロキンや抗HIV薬などの候補薬もありましたが、現状ではアビガンとレムデシビルに期待が集まっています。

ただしアビガンには催奇形性の危険性が言われており、妊婦の方や妊娠を希望する方には使用できません。男性の精液にも移行することが分かっているため、男性の場合も相手の女性に与える影響を考える必要があります。
また、レムデシビルでは腎機能や肝機能の低下も報告されています。

抗がん剤では副作用が強いにも関わらず使用しているように、医薬品はその薬を使うことで得られる患者さんへのメリットとデメリットのバランスを見ることが必要です。
また、薬の効果はそれぞれの人の体質や薬物代謝酵素によって異なります。

アビガン、レムデシビル、いずれの薬もCOVID-19への効果が認められ、選択できるようになることが理想ではないかと思います。

 

アビガンは1錠が600mgととても大きく、高齢者の方などは飲むのがなかなか大変そうです。

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医療関係の業界で転職しつつ働くこと9年以上。 医療・製薬系のお仕事や治験についての情報を発信しています。
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